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◇外国人から見た靖国問題 中国の野望

 どうしても、このところの情勢から、硬い記事になってしまうのですが、国内があまりにも呑気なので、外国人から見た日本の情勢を、一体日本はどういう立場になっているのかを、今回は転載させていただきます。
 このところ転載が多いのですが、人の文章を読んでいると、どうしても「これは伝えたい!」というものが多く、ご勘弁下さい。

靖国参拝の考察・上】桜に託す恩讐超えた祈り /アーサー・ウォルドロン氏 (産経新聞 2006年07月14日)
              
 私は個人的に靖国神社に対しては特別の複雑な思いがあった。第二次大戦中、私の叔父2人が日本軍との戦闘で死んだからだ。父の弟のアーサーは戦争末期、米海軍の軍人として太平洋で乗っていた艦艇を日本軍に撃沈され、戦死した。戦後すぐ生まれた私はその叔父の名をもらった。母の弟は米陸軍の将校で、語学の才があったため日本語の通訳にもなったが、フィリピンで1945年5月に日本軍に殺された。

 だから、私は叔父2人の死についての話をいつも聞かされて育った。才能にあふれる2人の若い叔父の死は家族にとっての悲劇だった。だから少年時代から日本の戦争行動に反発を感じ、いまも日本のかつての軍国主義には非難を覚える。日本が米国を攻撃したことは大いなる間違いだったのだ。その間違いをもたらした戦前の軍国主義と靖国神社が密接に結ばれていたことにも私は当然、批判的な意識があった。

 しかし、その一方、私は数多くの日本の家族も同じような悲劇を体験したことがよくわかる。日本には筆舌で表現できないほどの破壊がもたらされた。その日本には日本なりの方法で自国の戦没者を追悼する権利があると思う。私は小泉純一郎首相の「平和を祈るために靖国に参拝する」という言葉を信じる。首相が第二次大戦で日本が犯した間違いに通じるような軍国主義的政策を進めるなどとは信じがたい。日本は民主主義を実証した国家であり、米国と共通の価値観を持つ同盟国なのだ。

 日本側の戦没者も米側同様に自国のために戦って、死んだ人たちである。そしてなによりも米国と日本はすでに和解しているのだ。そう考えて何年も前に靖国神社を訪れてみた。

 靖国では私は境内に咲いたサクラの花びらをプラスチックの容器に入れた「靖国の桜」という飾りを1つ買って米国に持ち帰り、自宅の居間にいつも飾ってある亡き叔父アーサーの遺影の隣においた。感傷的にひびくかもしれないが、日本軍に殺された米国人と同じ戦争で同じように戦死した日本人のシンボルとを自分の部屋に隣り合わせに並べて、死者の霊を悼んだのだ。

 米国や中国は日本の国民や指導者に対し自国を守ろうとして死んだ先人をどのような方法で哀悼すべきか、命じることはできない。米国政府がフランスのシラク大統領に対し凱旋(がいせん)門で戦没者への慰霊の花輪をささげてもよいか悪いかを告げることなどできはしないのと同じだ。

 米国でもクリントン政権の高官だったジョセフ・ナイ氏やカート・キャンベル氏が小泉首相の靖国参拝に反対を表明し、米側がその旨を首相に伝えるべきだと提唱していることは私も知っている。

 両氏とも良心的な人物で私も知己だが、靖国神社をみるだけで、中国がどんな意図で政治的に動き、靖国を非難しているかを理解していないと思う。中国側からすれば靖国は将棋のなかの歩の駒の一つに過ぎないのだ。対日戦略での単なる道具の一つだともいえる。

 私のように先祖や家族、親類を日本との戦争で失った米国人にとって日本の戦争行動を認めたり、その正当化に同意することはきわめて難しい。靖国神社に対しても心情的な反発があるだろう。だが私たちの大多数はその過去を残念に思い、悼み、悲しむという態度になっているといえる。

 さらに私自身にとっては、いつも客観性を求めたいと願う学者として、しかも中国を長年、研究してきた専門家として、靖国参拝自体が論議の真の対象ではないことがあまりに明白にみえてしまう。中国にとっては、日本の指導者に靖国参拝をやめさせることが真の狙いではなく、小泉首相あるいは次の首相、ひいては日本の指導層全体を懲戒し、調教することこそが目的なのだ。

 中国がいまのように圧力をかけ続ければ、小泉首相の後継者は、安倍晋三氏でも福田康夫氏でも、靖国参拝をためらうようになるし、あるいは中止することを言明する。中国にとっては日本側のそうした譲歩がまず最初の第一歩となる。そのあとにさらなる対日要求が続いてくる。一つずつ一つずつ、サラミを切るような「サラミ戦術」であり、その最終目標は日本に対し中国が覇権的な地歩を固めてしまうことである。

【靖国参拝の考察・下】 覇権確立 核心は中国の野望 /アーサー・ウォルドロン氏 (産経新聞 2006年7月15日)

 日中両国間のいわゆる靖国問題について私はまず個人的な家庭環境などからの心情を述べたが、長年、中国について研究し、日本をも考察してきた学者としての分析を説明したい。
 中国は日本に対し優位に立ち、日本の行動を管理できるような、一種の支配権を確立することを一貫して求めてきた。日本がとる行動、とろうとする言動のうち中国側が好ましくないとみなす部分に対し拒否権を行使できる実質上の権利を保持したいということである。日本の政治指導者の靖国神社参拝に対し中国が反対を表明するのは、実はこの支配権確立への願望の一手段なのだ。

 つまり中国が自らの欲するままに日本を動かせるようにするという目的にとって靖国問題というのはきわめて有用で都合のよい手段なのである。だからもし靖国問題が存在しなくても、あるいはたとえ解消されたとしても、中国側は日本に対する優位性を保つためになにか別の問題を探し出し、非難の材料に使ってくるだろう。日本側の政治指導者が一定の行動をとろうと欲しながらも、中国からの反応を恐れて、その行動をとらないようになってしまう、という状態が保たれることを中国側は求めるのだ。

 日本の国民が以上の点を誤解してしまうことを私は非常に恐れる。すでに日本側の考察者の多くが混乱した認識を抱いているようだ。靖国神社に対する中国の抗議をそのまま受けいれて、戦没者追悼のための新しい神社を設けるとか、国立墓地などの新しい施設を建てれば、いわゆる靖国問題は消えてなくなり、中国側の抗議もなくなってしまうと考えるほど、むなしいことはない。これほど間違った認識はない。日中関係が緊迫し、悪化する真の原因は靖国問題ではないからだ。

 日本の首相が将来の靖国参拝をやめると言明してみても、中国は「それでは閣僚が靖国に参拝してはならない。国会議員も参拝すべきではない」というような要求をぶつけてくるだろうし、靖国と無関係の尖閣諸島の領有権の放棄とか、東シナ海でのエネルギー資源の権利の放棄とか、新たな要求や抗議を打ち出してくるだろう。

 だから日本としては主権や独立、行動の自由を保ちたいと願うのならば、靖国問題で中国の命ずるとおりにはならず、自国独自の判断と決定を保たねばならない。繰り返すが、日中間でいま緊迫を引き起こしているようにみえる問題の核心は靖国参拝などではまったくない。事の核心は日本に対し覇権を確立したいという中国の野望なのだ。

 この点の中国の意図を私は先に日本指導層への懲戒あるいは調教だと表現したが、まさに小さな子供やペットの動物に厳しいしつけをして、なにかを教えこむことに似ている。例えは適切でないが、自分の家のイヌが客間のソファに上がってしかたがないのをやめさせようとする。ソファに上がるたびに、イヌをたたいて、それがよくないことだと教えこむ。ソファに上がらなくなるまで、その仕置きを繰り返す。まさに調教なのだ。

 現実に中国政府は自分たちが好まない行動をとる外国の機関や人間に対しては個人のレベルにまで激しい圧力をかけ、自分たちに従順にさせるという慣行を一貫して続けてきた。その中国政府の日本の首相の靖国参拝に対する態度の理不尽さは、もし小泉首相が胡錦濤主席に「あなたは天安門に安置された毛沢東氏の遺体に定期的に弔意を表しにいくが、毛氏は旧日本軍が殺したよりもずっと数多くの中国人を殺したから、弔意の表明はその殺戮(さつりく)を正当化することになる」と告げた場合に予想される中国側の反応を想像すれば、よくわかるだろう。中国側はそんな通告は一蹴(いっしゅう)し、爆発的な怒りさえ示すだろう。

 中国政府が過去に日本の首相の靖国参拝をまったく問題にしない時代があった。日本の侵略さえ非難しない場合もあったのだ。毛沢東氏が田中角栄氏と会ったとき、田中氏が日本軍の中国での侵略や残虐行為への謝罪を表明しようとすると、毛氏が「日本軍が中国で戦わなかったら、私は政権を握ることはできなかった」と、たしなめたという話は広く知られている。

 中国が日本との関係を改善したいと思えば、靖国参拝への非難をやめればよいのだ。改善したくないから非難をやめないのだろう。中国が対日関係を改善したいと思わない限り、日本側が靖国問題でいくら譲歩しても、また新たな難題を突きつけられるだけなのである。

 ◆アーサー・ウォルドロン氏 プロフィール
 1981年ハーバード大学でアジア研究により博士号取得。ブラウン大学や海軍大学での教授を経て米国防総省顧問、米中経済安保調査委員会委員などを歴任。97年からペンシルベニア大学教授。著書に「中国の転換期」「中国の万里の長城」など。

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